「事前相談はしておいた方がいい。」
そう思ったことは、何度もありました。
でも、父はまだ生きています。
葬儀の相談をすることが、どこか父を見放してしまうような気がして、一歩を踏み出すことができませんでした。
第1話 まだ元気なのに、相談するのは失礼だと思っていました。
父は87歳。
二年前に胃がんが見つかりました。
それまでは毎週のようにグラウンドゴルフへ出かけ、地域の仲間と笑い合う、元気な人でした。
病気になってからも、
「またみんなとゴルフがしたいな。」
そう話していた父の姿を見て、私たち家族も「まだ大丈夫」と信じていました。
母は一人で父を支えながら暮らしていました。
妹は母の近くに住み、私も仕事の合間を見つけて病院へ通っていました。
ある日、テレビで「葬儀の事前相談」という特集を見ました。
「急な時でも慌てないために、元気なうちから相談しておくことが大切です。」
その言葉が心に残りました。
実は私も、以前から考えていました。
「一度くらい相談しておいた方がいいのではないか。」
でも、そのたびに思うのです。
「まだ父は生きている。」
「こんな話をするのは失礼じゃないか。」
「本人が知ったら、悲しい思いをさせてしまうかもしれない。」
結局、相談することはありませんでした。
父に少しでも長く元気でいてほしい。
その気持ちの方が強かったのです。
数週間後。
病院から一本の電話が入りました。
「ご家族の方、すぐにお越しください。」
私たちは急いで病院へ向かいました。
父は家族に見守られながら、静かに旅立ちました。
悲しみに包まれる間もなく、病院の方から声を掛けられました。
「葬儀社はお決まりですか?」
私は何も答えられませんでした。
「まだ……決まっていません。」
その瞬間、頭の中が真っ白になりました。
編集部より
「事前相談をした方がいいとは思っていた。」
そう話されるご家族は少なくありません。
しかし同時に、
「まだ元気なのに縁起でもない。」
「本人の前では話しづらい。」
というお気持ちから、相談をためらってしまう方も多くいらっしゃいます。
それは、大切な人を思うからこその自然な気持ちです。
だからこそ、もしもの時に慌ててしまうご家族も少なくありません。
もしもの時に慌てないために
- ご家族で一度でも葬儀について話したことがある
- 信頼できる葬儀社を調べている
- 病院で「葬儀社は決まっていますか?」と聞かれた時に答えられる
- 事前相談は「縁起が悪いこと」ではなく、家族の安心につながる準備だと知っている
このお話で伝えたかったこと
私は、事前相談をしなかったことを後悔しているわけではありません。
あの時は、それが家族にとって精一杯の選択でした。
でも今なら思います。
事前相談は、大切な人との別れを考えることではありません。
もしもの時に、家族が慌てず、故人との最後の時間を大切に過ごすための準備だったのだと。
次回予告
病院を出る時間が迫る中、私は初めてスマートフォンを開きました。
検索すると、たくさんの葬儀社が表示されます。
その中で、私が「地元の葬儀社にお願いしよう」と思った理由とは──。
あなたなら、
事前相談をすることが
できますか?
「まだ元気だから。」
「縁起でもないから。」
そう思って、相談をためらう方は少なくありません。
しかし、事前相談は「その日」を早めるためではなく、大切な人との最後の時間を、家族が落ち着いて迎えるための準備です。
今だからこそ、ご家族で一度話し合ってみませんか。


















































